映画の中の実用自転車と砲弾ライト

自転車の灯火( 前照灯=ヘッドライトの種類・様式 )にまつわり、では銀幕に登場な実用車をエビデンスとして考察してみる。

時期は、終戦の45年から、オリンピック開催の64年まで、現代劇に限定( 復興-高度経済成長期のピークに製作・公開された日本映画 )。

その他、後述、まずは列記( もちろん当時公開された映画の一部、気づいた範囲で )。

終戦の1945年( 昭和20年 )、調印日は9/2。

「東京五人男」東宝。ロケ地、おそらく終戦直後の都内。

昼間、実用自転車で疾走( ロッドブレーキ )。灯火( ヘッドライト )なし。

GHQの記録映像「Bomb Damage Tokyo」。ロケ地、おそらく終戦直後の都内( 後述 )。

昼間、実用自転車で疾走( ロッドブレーキ )。灯火( ヘッドライト )なし。

1946年( 昭和21年 )、「女性の勝利」松竹。ロケ地、おそらく終戦直後の都内。

昼間、実用自転車( 遠景、不明瞭 )。灯火( ヘッドライト )なしに見える。

1947年( 昭和22年 )、「新馬鹿時代」東宝。ロケ地、おそらく都内。

昼間、実用自転車で疾走( ロッドブレーキ )。灯火( ヘッドライト )なし。

同年、「素晴らしき日曜日」東宝。ロケ地、おそらく都内。

昼間、実用自転車のUP( ロッドブレーキ )、2台。ともに灯火( ヘッドライト )なし。

遠景に2台の実用自転車( わかりやすいのは )。2台ともに砲弾ライトに見える、1台はフルメッキか?

1948年( 昭和23年 )、「エノケンのホームラン王」東宝。ロケ地、おそらく都内。

昼間、主人公と好敵役が実用自転車で疾走( ロッドブレーキ )。

いずれもランプ掛けは確認できるが、灯火( ヘッドライト )なし。

1949年( 昭和24年 )、「青い山脈」東宝。原作では東北地方の港町。

昼間、実用自転車( ロッドブレーキ )。

一見、砲弾ライト( ベゼルはメッキ、本体は塗装 )、でもダイナモが見切れない=ランプ掛けに手提げランプ?

同車体と思われるが、夜間シーンで、スイッチ操作による点灯=手提げランプ( 操作シーンは珍しい )。

「続編」で、昼間、サイクリング集団、6台( ロッド式、内3台はスタッガード )。いずれも灯火なし。

同年、「晚春」松竹。ロケ地、湘南( 江ノ島が見切れる )。昼間、2台の実用車-並走。いずれも灯火なし。

同年、「野良犬」東宝。ロケ地、都内。何台かの実用車見切れるが、いずれも灯火なしに見える。

記録映像で「物のながれ」日本映画社。昼間、実用車にボテ箱、灯火( ヘッドライト )なし。

1950年( 昭和25年 )、「東京キッド」松竹。ロケ地、おそらく都内。

昼間、実用自転車( ロッドブレーキの輪タク )。灯火( ヘッドライト )なし。

他にも実用車見切れるが( わかりやすいのでは )、いずれも灯火なしだろう。

同年、「石中先生行状記」東宝。設定、東北地方。夜、実用車、押し歩き。灯火なし。

同年、「怒りの街」東宝。ロケ地、都内? 昼間、実用車にボテ箱、灯火( ヘッドライト )なし。

同年、「暁の追跡」新東宝。ロケ地、都内? 昼間、わかりやすいのは、実用車2台、ともに灯火( ヘッドライト )なし。

1951年( 昭和26年 )、「父恋し」松竹。灯火( ヘッドライト )なしかと…不明瞭。

同年、「泣きぬれた人形」松竹。ヘッドライト見切れるが…不明瞭( ダイナモないような? )。

1952年( 昭和27年 )、「東京のえくぼ」新東宝。ロケ地、おそらく都内。

自転車店の店頭、3台の実用自転車( ロッド式 )。いずれも灯火( ヘッドライト )なし。

豆腐屋の実用自転車、灯火( ヘッドライト )なし。この車体、前ロッド式、後コースター式と思われる。

同年、「原爆の子」近代映画。ロケ地、西日本。昼間、峠越えの実用車、灯火( ヘッドライト )なし。

同年、「郷愁」松竹。ロケ地? 昼間、牛乳配達の実用車、後に大型のパニアバッグ。灯火( ヘッドライト )なし。

1953年( 昭和28年 )、「姉妹」松竹。ロケ地、おそらく都内( 田園調布 )。

昼間、実用自転車( ロッド式 )でフェードイン。ランプ掛けに手提げランプ。

( 一見、砲弾ライト? でもこの車体にはダイナモが見当たらない )

昼間、野犬狩り実用自転車( ロッド式、リヤカー引いてる )。灯火( ヘッドライト )なし。

同年、「煙突の見える場所」新東宝。ロケ、都内。昼間、実用車2台。1台はランプ掛けに手提げランプ、もう1台はなし。

同年、「恋文」新東宝。ロケ、都内。わかりやすいのは、昼間、実用車、灯火( ヘッドライト )なし。

記録映像で「1953年の東京」東京都。ロケ、都内。昼間、実用車、灯火( ヘッドライト )なし。

1954年( 昭和29年 )、「どぶ」新東宝。ロケ、設定は秩父。

昼間、峠越え、サイクリング集団、5台( ロッド式 )。

4台はランプ掛けに手提げランプ、1台のみ砲弾ライトに見える( ベゼルはメッキ、本体は塗装 )。

1955年( 昭和30年 )、「乳房よ永遠なれ」日活。ロケ、札幌市。

実用車、わかりやすいのは2台。1台は灯火( ヘッドライト )なし、もう1台はライトありだが様式不明( ダイナモないような? )。

1956年( 昭和31年 )、「吸血蛾」東宝。ロケ、都内?

実用車、夕刻、灯火( ヘッドライト )なし=無灯火走行。

同年、「狂った果実」日活。葉山? 昼間、実用車( スタッガード )、灯火( ヘッドライト )なし。

同年、「真昼の暗黒」独立映画。原作は西日本。わかりやすいのは、昼間、実用車4台、2台は灯火( ヘッドライト )あり、もう2台はなし。

同年、「洲崎パラダイス」日活。ロケ、洲崎。昼間、実用車2台( そば屋出前 )、灯火( ヘッドライト )なし。

同年、「流れる」東宝。ロケ、柳橋。わかりやすいのは3台。2台は灯火( ヘッドライト )あり、1台はなし。

( ライトありの2台、1台はボテ箱、もう1台は、おそらく経師屋の側車 )

記録映像で「東京の橋」東京都。昼間、多数の実用車( 運搬車 )、様式不明だが、その多くは灯火( ヘッドライト )あり。

1957年( 昭和32年 )、「東京暮色」松竹。ロケ、都内?

昼間、実用車、砲弾ライトに見える( ベゼルはメッキ、本体は塗装 )。

同年、「青空娘」大映。設定は伊豆。昼間、実用車、砲弾ライト( フルメッキ )。ボテ箱の実用車( 魚屋 )、灯火( ヘッドライト )なし。

1958年( 昭和33年 )、「暗黒街の美女」日活。ロケ、都内。

実用車、わかりやすい数台は、半分は灯火( ヘッドライト )なし、もう半分はあり。

1959年( 昭和34年 )、「素ッ裸の年令」日活。ロケ、都内( 京浜国道? )。

実用車、わかりやすいのは2台。1台は砲弾ライト( フルメッキ? )にボテ箱、もう1台は灯火( ヘッドライト )なしに見える。

同年、「にあんちゃん」日活。主に西日本方面。実用車、灯火( ヘッドライト )なし。

同年、「貸間あり」東宝。設定大阪? 実用車、わかりやすいのは3台。2台は砲弾ライト、1台は灯火なし。

同年、「裸女と殺人迷路」新東宝。都内城北? 実用車2台、1台はあり、1台はなし。

1960年( 昭和35年 )、「からっ風野郎」大映。ロケ、都内?

昼間、ボテ箱の実用車( スタッガード、薬局? )、砲弾ライト( フルメッキ )。

同年、「裸の島」近代映画。ロケ、瀬戸内。

昼間、実用車9台、内7台は灯火( ヘッドライト )あり。ボテ箱の実用車1台、あり。

1961年( 昭和36年 )、「豚と軍艦」日活。ロケ、横須賀。

昼間、実用車、灯火( ヘッドライト )なし=わかりやすいのはこの1台。

同年、「女は二度生まれる」大映。ロケ、都内。

昼間、ボテ箱の実用車( アイスキャンデー屋 )、灯火( ヘッドライト )あり。

1962年( 昭和37年 )、「続六人姉妹」東映。ロケ、栃木駅?

昼間、スタッガード2台、ともにフルメッキの砲弾ライトに見える。

ただ、1台はランプ掛けでなくステム上=ステムボルトに共締めタイプのランプ掛け。

同年、「からみ合い」松竹。ロケ、湘南( 旧レストハウスが見切れる )。スタッガードの軽快車( ロッド式でない )。灯火( ヘッドライト )なし。

同年、「キューポラのある街」日活。ロケ、川口市。

昼間、実用車3台。2台は灯火( ヘッドライト )あり( 1台はリヤカーを引く )、1台はなし。

1963年( 昭和38年 )、「にっぽん昆虫記」日活。ロケ、都内( 現代劇シーン )。わかりやすいのは、実用車5台。2台はあり( 砲弾ライト? )、もう3台は灯火なし。

同年、「青い山脈」日活。ロケ、彦根市。昼間、わかりやすいのは、実用車4台( 内2台はスタッガード )。2台は砲弾ライト( フルメッキ? )、もう2台は灯火なし。

タンデム自転車1台、灯火なし( このタンデムもロッド式に見える )。

1964年( 昭和39年 )は東京オリンピック。

「赤い殺意」日活。ロケ、東北( 仙台? )。わかりやすいのは、昼間、実用車2台。ともにダイナモ式ライト( 1台はカゴ前 )。

「黒の超特急」大映。ロケ、都内。スタッガードの実用車、砲弾ライト( フルメッキ? )。

記録映像で「東京」英映画。ロケ、都内。

昼間、わかりやすいのは、実用車4台。2台は砲弾ライト( フルメッキとベゼルのみメッキ? )、もう2台は灯火なし。

オリンピック後の66年だが、珍しいケースで「河内カルメン」日活。

峠越えのスタッガードの実用車、ダイナモ式の角型ヘッドライト( ベゼルはメッキ )。62年「続六人姉妹」の1台同様、ステムボルトに共締タイプ。

以上、終戦-オリンピックまで。

灯火( ヘッドライト )なしは、前照灯の類が見られない・未装備の意味。

スタッガードとした以外は( 何台かはループ形状 )、ほぼ典型的なホリゾンタルフレーム。

ステムボルト共締は、昔は、ステム上にランプを取り付けるためのアダプター( L型金具 )があったんです。

cycling-movies

まとめ。

45年-49年、日本映画10本、記録映像1本。19台( 灯火なしは17台 )。内、ダイナモ式と思われるのは1台、電池式と思われるのは1台。

50年-55年、日本映画14本、記録映像1本。26台( 灯火なしは15台 )。内、ダイナモ式と思われるのは3台、電池式と思われるのは6台。

56年-59年、日本映画13本、記録映像1本。22台( 灯火なしは12台 )。内、ダイナモ式と思われるのは10台( 電池式は不明 )。

60年-64年、日本映画11本、記録映像1本。36台( 灯火なしは13台 )。内、ダイナモ式と思われるのは23台( 電池式は不明 )。

全103台、おおまかに、ライトあり46台、なし57台。もちろんランダムなチョイス=バイアスなデータ。

詳細に台数不明( 遠景で不鮮明など )は除外。それもカウントすれば、それぞれ倍の数になると思われる。

補足。

45年のGHQ( 7th AAF )映像、9月のクレジットが。

Japan Air Raidsのアーカイブなどを参照すると、45年撮影と思われるが、もしかすると46年?

その他GHQによる終戦直後の帝都映像、けっこうな数の自転車が( 見た範囲では、すべて灯火類は未装備に )。

が、いずれも不鮮明、それでサンプルは1台とした。

総評。

40年代は、ほぼほぼライトなし。50年代にかけて電池式が主流で、ダイナモ式は少数派?

50年代中期ころからダイナモ式もよく見切れるように、そして50年代末から60年代には普遍化だろうか。

意外は、ロッド式ブレーキのオンパレード。ワイヤー式は62年の「からみ合い」に登場な1台のみ。

( 劇中とはいえ、ロッドブレーキ一辺倒とは想像もしてなかった。現在と真逆 )

競輪のシーンは幾度かあれど、一般的なスポーツ車・サイクリング車は皆無( 探せなかった )。

自転車に乗る子供が皆無。フィルムノワール的な作品も多い、そういうものかもしれないが…Hmm

( 載せてないが、58年「巨人と玩具」大映に、子供の乗る自転車が、20インチ前後のコースター式? )

載せなかったが、57年「黄色いカラス」松竹に、ロッド式実用車のメンテナンス・シーンが( 車体逆さま )。

あと、記録映像より、劇作品の方がわかりやすい( 自転車と、ともに登場するなど、UPに。対して記録作品では、遠景的に見切れる程度=不鮮明 )。

だが、劇では、小道具的に使い回しな車体もあるだろう=あくまでも劇中、まあ参考程度に。

つづく…

追記。

上記、一作品選ぶなら( 自転車関係なく )、迷わず、56年「流れる」だろう。

( 監督は成瀬巳喜男。スタイリストは岩田専太郎。超豪華キャスト&東京の下町・柳橋における置屋の情景がリアルという、評価も高い絶品 )

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