初めて物語( パスハンターの巻 )

今に通じる( 概念的にも )パスハンターの起源は50年代中期、当初は”アルペン・サイクリング”と云われた。

その始祖は? ポピュラーに公的な記録が残されているものでは山田鉑雄氏になる、そう、かの”下りの山ちゃん”に。

( パナソニックバイシクルがフィーチャにNCTC登場のCMを記憶されている方も多いかと )

昭和33年( 1958年 )、その山田氏により「峠・関東編」が刊行、この「峠」こそがパスハンターのバイブルに。

( それで初めて自転車でのアルペン[alpen]なるスタイルを知ったが、リアルタイムではない、後年、学校の図書室で巡り会う )

これは山岳エリアの峠のみをターゲットとする、平たくは、パスハンティングの解説&入門書に。

ただし、その文言には”登山での岩壁登攀に相当する”とされ、サイクリングにおいて”最も高度な技術を要する”云々。

つまり嶮峻な山越えをも標榜するもので、整えられた林道に舗装路上での峠越えではない。

( サイクリングはふまえ、いわば「新ハイ」のバリエーションに近いコンテンツ )

実際、スパイクピンの使用についても付言されてる( CXに例えてもアイゼン使うじゃないですか )。

そのようなルートファインディングの想定は( ハイキングよりも過酷なニュアンスな説明 )、万人受けするものではないと冒頭で釘をさしてる。

( ちなみに以前に紹介な乗鞍は、アルペン・サイクリングでは入門者コース=なぜならば道迷いの懸念が低い、対して中・上級者ルートでは読図必須 )

深山の峠をルーファイで詰め、時にはピークも踏むという異端的なスタイルには違和感を抱かれるかもだが、そこは”信念の相違”であると山田氏は語る。

( たとえばあえて山頂に自転車を担ぎ上げるのも、それは個個の哲学的な問題であると )

pass-hunter

そのベースとなる車種・車体に関しては、特に限定なし=手持ちの車体で可、自ずとカスタムに。

( そもそもパスハンターは既存の自転車の改造=まだ戦後10年目ころの話であり )

それに際しての必須条件に、当時、山田氏が定めたのは、まず山道で”押せる”こと、そして”担げる”こと。

ただし、ステップUPな虎の巻は、万人受けするものではない云々に、相応にサイクリング車の知識があることが前提に。

そして軽量化も=押す&担ぎに特化では、ただ、登攀云々に例えたように、ハードな使用に耐え得る手法で。

( ちなみに山田氏によるパスハンティング車は、画像で見る限り、泥除けも装着してる )

ハンドルバーはオールランダー&フラット系推奨、ドロップの場合はツーリストレバー推奨=吉川のギドネットと思われる。

( ただ、50年代のオールランダーバーは、たとえば今のママさん自転車が装着なハの字アップハンドルに近いものも )

ブレーキはセンタープル、サイドプルも可などなど、その他はケースバイケースに=ルーファイに留意。

要ともなるギア比は、30インチよりも低いギア比率では歩いた方が早い云々、な、解説が。

留意は、始祖連など、昔のサイクリストは健脚。それとインチ云々も最近では使われない表記かと。

( ホイールインチで計算な手法で、トランスレートでは、たとえば前46Tで後39T前後にギア比1.18前後に相当でしょうか。ちなみに当時、坂用での通例は40インチか? )

積載に関しては、やはりアルパイン系の特徴ともなるが、フロントバッグまたはサドルバッグ、さらに2サイドも想定。

2サイドの場合、押し&担ぎでは、パニアバッグなどは別に肩で背負う。またサドルバッグも状況に応じて別に背負う。

( これも山田氏は、フル装備ではフロントバッグにフロント2サイド、そしてサドルバッグも装着でアタックな画像が残されてる )

相応に大型のバッグが必要な理由は、本格的に山岳系=水と食料&クッカー類の積載にビバークをも想定で。

それは山行では当然に常識でもあり、そのような装備( 用意 )がないママに山に入るとか、どうかしてるとしか…

( たとえ低山でもバリエーションでは、水の余裕にツエルトかビバークサックは携帯、手強いルートにはセルフビレイも用意など )

すると、では、昨今のパスハンターとされる( 図鑑に掲載されるかのような )極めてシンプルなフォルムは、と言うと、さらに後に整えられた様式に。

( 主にルートが明確な林道活用なルーファイか、舗装路上の峠用。要は、軽装備=過酷なルートは想定しない )

その、昨今のパスハンターまでの流れ云々な前に、なぜに日本固有の車種とされているかな史観を。

そこで門外漢ではあるが登山にアルピニズムの説明が必要に。

つづきます。

補足1。

50年代の著書「峠」について。山道の峠越えに特化では初のパスハンター本。

その概念、車体にまつわるエトセトラ、山岳装備は食糧&飲料にも付言、そしてルーファイ&走行指南からコース案内まで。

そのように総体としてのパスハントを紹介な初の試みでもあり、山に自転車で入る理由の整合性までも説かれてる。

半世紀以上前の古書である点を差し引いて考えても、総体では、依然、これを超えるパスハン本はないかと。

( また先に紹介の”信念の相違”である云々は、今、こういうことをズバッと言える人はなかなか…)

後の80年代に例えても”山岳サイクリング研究会“による冊子の発行もあれど、また、さらに後の「自転車パスハンティング( 薛雅春著 )」の刊行も。

それは実践的な試み( コースガイド&部品紹介&アタック手法の手引きなど )であるが体系的に史実面が弱い。

( そのような80年の文献は、すでにMTB影響下にある点にも留意。ちなみに”MTB”は登録商標、通例は”マウンテン・サイクル”に )

否、日本固有の山岳の概念云々と史実面にも多少はふれているのですが、抽象的。

体系的に捉えるにおいて肝心な、この風土において、なぜにパスハンが派生し、如何に進化を遂げたか、な、そのエビデンスが欠落。

( How-to本にそこまでな期待は酷かも? 薛氏の本はクロスオーバー期の資料としては希少だが、そんな点が惜しい…)

対して山田氏による「峠」では、御当人が戦前-戦中に草創期サイクリングを体現されており、また当時の世相も合わせて紹介されている。

( 以前に紹介のように、ロウソク式ランプの時代から自転車に乗られていた方ですので )

と、山田氏の文言そのものにエビデンスとしての価値が。また関東エリアに特化なインフラの説明からも、民俗学的な意味をも派生する。

これ国会図書館にて回覧可能なので、もしも興味があればぜひ。

補足2。

山相&地勢な概念はローカルなもの=山岳サイクリング車の様式はそれに即す( 自然条件と乗り手のレベルに応じたルーファイにも )。

経験値もふまえ、ある程度は整うとしても、法律書にも”わからないもの”とある自然において、端的には、その時々なスタイルにならざるを得ない。

( 季節に即すのは無論、基本装備はともかく、どこの山でも同じ装備品でのアタックはありえないのと同様に )

山に入る以上、より顕著にローカル色が出るところも本格的な山岳サイクリング車の面白みでもあるまいかと。

でも、もちろん主に舗装路活用にマイルドな山岳系であれば、いわば全国共通的なスタイルもあって然りでしょう。

そして2サイドも推奨では、キャリア・荷台にも留意=パスハンターに荷台がありえないかのような発想は後年の派生。

( ちなみに、北アルプスで担いでる写真かと思われるのですが、ガッチリした荷台付いてます )

あと、山田氏は、リュックサック=バックパックの使用についてはふれてないが、UL系も波及な現在ではケースバイケース。

( ルーファイにもと例えたように、その内容次第、これという決まりはあるわけもなく )

補足3。

前に56年の乗鞍の件で”日本アルプスサイクリング実行委員会”のサポートにふれた。

アタックに際し、鳥山新一氏はメーカーと協力に山岳用部品の開発にもトライされている。

( 戦後サイクリング黎明期、すでに山岳走行に特化な概念の派生に留意。実際、カテゴライズにも山岳サイクリングが )

その1: 自転車登山に山サイ
その2: 戦前のサイクリング
その3: 自転車に大道無門
その4: 山旅と古道な幹線道路
その5: 高尾山年表( 近代インフラ編 )前編
その6: クライミングにパスハンター
その8: アルペンサイクリング